世の中には「飲めないけど酒が好き」っていう矛盾を抱えた生き物がいる。それが、私。酒を飲めないのに、泡盛の博物館に行った事がある。酒を飲めないのに、泡盛の匂いを嗅いで目が回った事もある。そして何より、酒を飲めないのに、泡盛の歴史に心酔している。
沖縄には『泡盛』という、もはや『飲む文化遺産』と化した酒が存在する。その破壊力は、観光客の胃袋だけでなく、記憶も財布も奪っていく。さらに言うなら、泡盛が並んでる土産店の空間だけで酔えるレベルの香りが充満している。おいおい、酒って飲み物じゃなくて空気だったのかよ。
ということで今回は、泡盛の飲み方やお勧め銘柄なんて軽薄な方向には一切触れずに、泡盛の『中身』じゃなくて『背景』つまり歴史や文化、製法の深淵に触れていこうと思う。飲めなくても語れるんだよ。語れないのはただの酔っ払いだ。それでは、飲めない男が泡盛を語る地獄のツアー、始めましょう。
【泡盛とは?】
泡盛(あわもり)。それはただの酒ではない。焼酎の親戚のようでいて、親族会議で口もきかないくらい遠い存在。「泡盛って焼酎と一緒でしょ?」とか言ってるヤツ、居酒屋で全力説教してやる。
①焼酎との違いは『育ち』
項目 | 泡盛 | 焼酎 |
---|---|---|
原料 | タイ米(インディカ米) | 米、麦、芋などいろいろ |
麹菌 | 黒麹菌(もはや泡盛専用) | 白麹・黄麹など |
蒸留方法 | 単式蒸留(一回勝負) | 同じく単式蒸留が基本 |
仕込み | 一次仕込みのみ | 一次+二次仕込み(が多い) |
熟成 | 長期熟成(古酒=クース)推奨 | 熟成なし~数年程度も多い |
製造地域 | 沖縄県内限定(国が認めた) | 全国各地 |
②原料はなぜタイ米?
沖縄は湿度が高すぎて、日本の普通の米(ジャポニカ種)じゃ酒作りに耐えられない。そこで使われたのがタイ米(インディカ種)。なにがすごいってこの米、泡盛の黒麹菌に異様にマッチするんだよ。言うなれば『ビールに枝豆』くらいの黄金ペア。しかも長期保存にも強い。泡盛の歴史とともに、なぜか米まで海外から招集されている。グローバル酒かよ。
③黒麹菌(くろこうじきん)とは何者か?
こいつが泡盛の要。他の酒が白麹や黄麹を使ってる中で、泡盛だけは黒麹一直線。この黒麹、何がスゴいって「クエン酸」をバカみたいに生成してくれる。
何が起きるか?
- 酸性が強くなって、他の雑菌が死ぬ
- 酵母の独壇場
- 結果、腐りにくく、暑くても酒になる
つまり、泡盛は沖縄の高温多湿な環境でも腐らず発酵し続けるバケモノ酒なのだ。黒麹がなかったら泡盛は泡どころかただの腐った米汁だったと思え。
④[製法]一発仕込みの潔さ
一般的な焼酎が『一次仕込み→二次仕込み』と回数を重ねてやっと酒に仕上がるのに対し、泡盛は一発勝負。一次仕込みだけで堂々と蒸留までいく。まさに漢の勝負酒。あんまりスマートじゃないけど、そこが泡盛の魅力。泥臭さこそ、魂の証。
⑤[結論]泡盛とは何か?
焼酎のようで焼酎じゃない。米の酒だけど日本米じゃない。日本の酒だけど海外由来で、飲めない俺がここまで語るしかないほど文化的にも奥が深い。それが泡盛。俺は飲めない。でも語る価値はある。だって、こんなクセとロマンと黒麹が詰まった酒、他にないから。
⑥[起源]泡盛のはじまりは『パクリ』から
泡盛の原型が日本に登場したのは、15世紀(1400年代)後半ごろ。当時の琉球王朝(中山王・尚真あたり)が貿易で交流してたのが、シャム(今のタイ)や福建省あたりの中国南部、東南アジア諸国。
「蒸留って技術があるらしい」とか「酒を煮詰めて作れるらしい」そんな文化と共にやって来たのが、泡盛の原点。
要するに泡盛って『タイ米(インディカ米)』と『黒麹菌』と『東南アジアの蒸留文化』の三重奏で出来上がった文化のハイブリッド酒なんだよ。
⑦[発展]琉球王朝の『国営事業』になる
16世紀には首里(那覇)周辺で泡盛の製造が盛んに。特に首里の赤田と崎山と鳥堀の三地域は、王族直轄の泡盛製造地区、つまり『国営蔵元』になった。この頃の泡盛はもう酒じゃない『外交用の贈答品』か『王族専用のエリートドリンク』だ。
・中国の冊封使に出すわ
・薩摩(鹿児島)の偉い人にも送るわ
・王様はガンガン飲むわ
とにかく琉球の『国家ブランド酒』として泡盛は出世街道まっしぐら。
⑧[転落]明治政府と酒税法にぶっ叩かれる
明治政府による琉球処分(1879年)で琉球王国が廃止。沖縄県が設置されると、泡盛は『国家の保護対象からただの民間の酒』に格下げ。さらに追い打ちをかけたのが、酒税法(1899年)の導入。
「製造したら税金払え」
「勝手に作ったら密造酒扱い」
…あのな、当時の沖縄の庶民にそんな法律通じるか!これにより泡盛文化は一度ズタボロにされる。でも人間ってのは強い。この時期に新たな蔵元や民間の泡盛製造業者が少しずつ台頭してくる。
⑨[壊滅]第二次世界大戦と沖縄戦
沖縄戦(1945年)で、泡盛の蔵元もろとも首里が壊滅。全部焼けた。元々王族の蔵元があった地域=一番歴史ある泡盛のDNAが、まるごと消えた。古酒(クース)も失われた。レシピも焼けた。設備も崩れた。それでも、戦後に残った民間の職人たちが、口伝と記憶で復活させた。お前これもう文化遺産どころか人間の執念の結晶だよ。
⑩[復活]観光客と一緒に再ブレイク
戦後、米軍統治時代を経て、1972年に沖縄が日本に復帰すると、今度は観光ブームが泡盛を押し上げる。
「古酒(クース)ってカッコいいじゃん!」
「沖縄といえば泡盛でしょ?」
「お土産に買っていこう!」
バブル期には20年物の古酒が何十万円で取引された事もある。沖縄の泡盛業界、過去最高の黄金期に突入。
【まとめ】
国に守られ、法に叩かれ、戦火で焼かれ、人に救われ、時代に取り残された。それでも今日も泡盛はある。俺は飲めない。でも歴史は味わえる。そしてその一杯に、500年分の沖縄の魂が詰まってるってことだけ、ちゃんと覚えて帰れ。
【泡盛の種類を簡単に整理】
分類軸 | 種類 | 特徴 |
---|---|---|
熟成年数 | 一般酒(新酒) | 熟成が3年未満。クセが強い。若い。尖ってる。飲み方次第でどうとでもなる『未完成の天才型』 |
古酒(クース) | 熟成3年以上。時間をかけた分だけ角が取れてまろやかに。10年、20年モノは『飲む骨董品』扱い。 | |
熟成方法 | 単式古酒 | 一種類の泡盛をずっと寝かせて作った正統派。古酒としての誇りを持ってる。 |
ブレンド古酒 | 古酒と新酒を混ぜて飲みやすくして「こいつ…混ぜてやがる…!」ってなるけど、悪くはない。 | |
製造方法 | 全麹仕込み | 黒麹菌だけでガチンコ勝負。伝統に忠実な泡盛スタイル。香りとコクがガツンと来る。 |
減圧蒸留 | 飲みやすさ重視でクセを減らした現代風。軽い口当たり。初心者や観光客向け。バチボコに売られてるやつはこれ多い。 | |
酒造の個性 | 各酒造の味の違い | 水が違えば味も違う。火加減、温度、米の粒度、菌のご機嫌…全てが味に出る職人芸の世界。結果、好みは人それぞれ。 |
①古酒は時間が作る芸術(飲まないけど)
泡盛の最大の魅力は『寝かせたら旨くなる』という仕様。これは焼酎や日本酒にはあんまり無い文化。
「3年寝かせたら古酒」
「5年でエリート」
「10年超えたら神域」
ただし、瓶の中で寝かせるのは難しい。なので熟成中の古酒っていうのは、酒造で管理されているもの限定。お前の家に5年置いといてもそれただの埃かぶった新酒だからな。
②酒造ごとの違いはワインと同じ
「〇〇酒造の泡盛が好き」って人も多いけど、これってワインの「シャトー〇〇が好き」みたいなもん。
理由は
- 米の質
- 水(沖縄の水って硬度高めでミネラル多い)
- 黒麹の扱い方
- 蒸留釜の構造
- 職人の性格←え?
例えば
- 瑞泉酒造(那覇)→正統派でまろやか、伝統守ってる感MAX
- 菊之露酒造(宮古島)→パンチ強め、クセが光る
- 久米仙酒造(久米島)→モダンで飲みやすいラインナップ多め
って感じ(飲まないけど)
【まとめ】
泡盛ってのは、ただの酒じゃない。熟成と風土と職人の命を詰め込んだ沖縄版クラフトスピリッツだ。飲めない俺でもそれはわかる。飲まないけど好き
って矛盾した感情があるとしたら、それが泡盛だと思う。
【なんで沖縄県民はお酒好き?】
答えは簡単。酒が文化の中心にいるからだ。本土の人間が「とりあえずビール」って言ってる間に、沖縄県民は「とりあえず泡盛」って言ってる。しかも朝から言ってる時すらある。
①泡盛と沖縄文化の密すぎる関係
沖縄で泡盛はただの酒じゃない。命の交差点だ。結婚式、法事、誕生日、旧盆、新築祝い、開店祝い、通夜、あの世の送別会まで、ほぼすべての儀式に泡盛が絡んでくる。「泣いても笑っても泡盛で乾杯」それが沖縄。
②皆で飲む『ゆいまーる精神』
沖縄には『ゆいまーる』という言葉がある。意味は『助け合い・支え合い・おすそ分け文化』この精神が飲み会にも生きてる。
- 泡盛は一人でチビチビ飲むものじゃない
- でっかいボトルを皆で回し飲みする
- 飲み終わった後に「だから○○なんだよな〜」と急に語り始める
一人で完結しない。一杯が誰かと繋がるツールなんだ。
③お酒に強いんじゃなくて飲むことが当然
沖縄県民は酒に強いって思われがちだけど、実際は体質より文化が先に来てる。
・親戚が来たら飲む
・おじぃと飲む
・職場の飲み会でも飲む
・祭りでも飲む
・台風で仕事が休みになったら飲む
要するに飲む理由に困らない環境にいる。
④酒がアイデンティティだから
沖縄にとって泡盛はただのアルコールじゃない。
- 沖縄戦で壊滅した酒造が復活して守り抜いた
- 琉球王国時代に中国と日本の狭間で生まれた
- 文化の証であり、誇りであり、地元を語る道具
泡盛を出されて「飲めないです…」って言うと、その場が微妙に凍るのはそういう背景がある。
⑤それでも飲めない俺から一言
「文化は理解するが身体は拒否する」
飲めないけど…でも…わかるんだよ。沖縄の人が泡盛に込める『魂の量』ってやつが。俺が泡盛を飲んだら魂が離脱して戻ってこない。でも泡盛を持って乾杯してる人を見ると、なんか羨ましい。だから観光で飲む時も「なんか強ぇ~」とか言って投げ出さず、せめて一杯だけでも、沖縄の文化を味わってくれ。飲めない俺の代わりに、な?
【最後に】
俺は酒が飲めない。アルコール耐性はバグってゼロ。泡盛の香りを嗅いだだけで「これは三途の川ってやつか?」ってなる。
でもだ。そんな俺でもわかる。泡盛はただの酒じゃねぇ『魂の飲み物』だ。沖縄の人たちにとって、泡盛は乾杯するための道具じゃない。人生の節目に寄り添ってきた相棒であり、文化であり、誇りであり、言い訳でもある。
「今日も泡盛あるから頑張れるさ〜」
「泡盛あるから落ち込む暇なんてないさ〜」
「泡盛あるから明日もきっとなんとかなるさ〜」
そんな魔法みたいな存在、他にあるか?飲めない俺から最後にひとつアドバイスするとすれば、飲めない人は無理せず文化だけ味わってきてくれ。泡盛が飲めなくても、そのラベルの歴史や、酒蔵の空気、島のおじぃの語り口ひとつ取っても、ちゃんと沖縄は伝わってくる。
だから、飲めるヤツはありがたく酔っ払ってこい。飲めないヤツは、俺と一緒にノンアル片手に文化酔いしようぜ。酒が飲めない俺がここまで語れるんだ。飲めるお前が沖縄に行って何も感じずに帰ってくるわけないだろ?
というわけで。この記事書いてる間に、気づけばノンアル気分でもう酔ってたわ俺。泡盛は、飲めなくても…沁みるんだよ。